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        ~漆黒を得るためのプラスチック用着色剤の特徴~

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 プラスチックの着色にはさまざまな目的がある。例えば、製品が古くなるにつれ外観が変化することを防ぐことを目的としていたり、あるいは最終製品の内部の部品で通常は人目に触れない部品であっても製品の組み立て工程で間違えないように単色で識別したり、あるいは鮮やかで多様な色調で豊かな意匠性のある表現を持たせたりすることができる。このような着色材のもつ本来の色相が重視される用途とは異なり、黒色の用途では色相ではなく、彩度と明度が低ければ低いほどよいという特徴がある。近年の家電製品のハウジング用途で、深い透明感のある黒色、いわゆるピアノブラックと言われる、鏡面を見るような鮮やかな漆黒の製品がこれにあたる。

 また着色材にはこのような着色や意匠という主目的の他に、プラスチックの耐光性を向上させること、あるいはプラスチック製品の成形条件を緩和して製造工程を容易にするといった二次的な効果も期待される。これらも色材の選択をするときの重要な因子である。

 本稿では漆黒に使用される着色材の中で、なぜ油溶性染料(一般に染料)が優位にあるのかと、それにどのような特徴があるのかを述べる。

 黒色用途であれば、直感的には、ある程度彩度の低い色であれば、色材を高濃度にしていけば、段々と暗い色調になり、さらに高濃度にすればやがて黒色を呈するように思える。事実その通りの現象が得られるが、プラスチック製品に様々な悪影響が発生するので実際にはどこまでも高濃度にすることはできない。また、高濃度添加の弊害として特に染料の場合には成形物中の染料が加熱や直接的な接触で昇華して他の成形物に色が移る、いわゆるブリード現象を引き起こすことがある。また染料よりももっと高濃度で使用される顔料では、プラスチックの機械特性に悪影響を与えることが懸念される。

 図1(左図)は漆黒性染料であるNUBIAN® BLACK PC-8550(オリヱント化学工業株式会社製)と顔料であるカーボンブラックの添加量を変化させたときの樹脂製品の機械強度の変化を示した。どちらも初期(0.2%)から添加量が増えるにつれ機械強度は徐々に下がっていくが、カーボンブラックの機械強度の低下は染料のNUBIAN® BLACK PC-8550に比べて同濃度においてさえ2.5倍以上の差が見られる。

1(右図)は機械強度の低下を減衰率から見たものである。NUBIAN® BLACK PC-8550を1.0%添加するときの減衰率は14%であるが、これはカーボンブラックでは0.1%付近に相当するから、実に10倍程度の影響である。実製品での使用濃度を考慮すると、カーボンブラックは染料より高濃度で使用するのでさらにその差は拡大する。

              図1. Charpy Impact Test(RESIN:HIPS)

 

 

 

 

 








  プラスチック用の着色材には、一般的に無機顔料、有機顔料、染料(有機溶剤可溶型染料=油溶性染料)の3種類がある。このうち無機顔料には最も代表的な黒色着色剤であるカーボンブラックをはじめとして各種の遷移金属化合物などである。無機顔料は一般に有機染顔料に比べて耐久性は優れていると言われるが色調はそれほど鮮やかではなく、発色も淡いので、樹脂への添加量は3%程度が必要になることもある。

 有機顔料と染料はどちらも芳香環系の有機化合物からなり、両社の違いは本質的には樹脂との相溶性であり、樹脂の中で分子に近いレベルまで分散するかしないかの違いにある。顔料の粒子は数十nm~数十μm程度のサイズで、樹脂中にあって光を吸収・散乱して遮断するため樹脂製品の内部は全く見えないことになる。顔料は樹脂内部を隠ぺいするので不透明な樹脂製品の着色に向いており、色調は樹脂素材に左右されにくく、比較的はっきりとした色調を与えることができる。顔料の場合も添加量は少なくはなく1%内外になることがある。

 これに比して染料は樹脂中に容易に分子レベルまで分散し相溶して樹脂の非晶性領域に存在し透明性を維持するので、染料では透明性が感じられる奥行きがある着色をすることができる。反面、染料の色調は樹脂の素材のもつ光学特性の影響を大きく受ける。染料の場合は一般に発色は個々の分子によるので添加量は顔料に比べて少なくすみ、通常の樹脂製品なら0.1~0.2%程度で十分な発色を得る。反対に染料を数%も入れてしまうと暗色となり本来の色彩は見えなくなってしまう。

 これらの無機顔料、有機顔料、染料は、有彩色の用途の場合には使用濃度が大きく異なることに着目したい。漆黒性の用途ではこれらの有彩色の伝統的な使用濃度にこだわる必要は無く、この濃度については改めて考察したい。

 一般に染料は有機顔料に比べて耐光性等に劣るというのが通説であるが、これは上記のように実際に添加量が大きく異なる使用状況下での比較であって、そもそも前提となる比較に供される色材の添加量が決定的に違うことをまず知るべきである。耐光性は濃度と相関しているので、使用状況下を踏まえた上での濃度の違いを考慮した比較が必要である。

 よく使用されている代表的な有彩色の染料・顔料として、C.I.Solvent Blue 104(染料)とC.I.Pigment Blue 15:4(顔料)を比較した。C.I.Solvent Blue 104は汎用のアントラキノン染料であるが、C.I.Pigment Blue 15:4は耐光性が良いと言われる銅フタロシアニン顔料である。これらについてポリカーボネイト樹脂(PC)に加えた添加量(濃度)と発色の濃さ(L*値)を図2にプロットした。これらの着色材は濃度が極端に変化すると色相が水色から紺色へと多少変化するので、発色の強さは便宜上、L*、a*、b*のうち明度を表すL*値を採用した。

     

            図2 L* value v.s. COLORANT CONTENT (PC Resin,D65-10)

       

 どちらの色材も濃度が大きくなるとL*値が低くなっていくことがわかる。染料は顔料よりも発色が強いので、C.I.Solvent Blue 104が0.1%のときの発色はC.I.Pigment Blue 15:4が0.4~0.5%程度に相当する。どちらも濃度が大きくなるにつれL*値の低下は緩やかになる、つまり飽和していく傾向にある。したがってC.I.Solvent Blue 104が0.6%のときの発色(L*<10)はC.I.Pigment Blue 15:4では実現できない領域ではあるが、通常の有彩色ではそこまで高濃度にする用途はない。

 次に両者の濃度ごとの耐光性試験の結果を図3にプロットした。耐光性の評価は照射試験前の樹脂製品の色相を標準として色差ΔEで評価した。どちらも濃度が大きくなるとΔEは小さくなり耐光性が向上することがわかる。ただしC.I.Pigment Blue 15:4ではその変化は直線的であるが、C.I.Solvent Blue 104では濃度に大きく依存し飛躍的に耐光性が増大する。つまりC.I.Solvent Blue 104は0.1%でこそC.I.Pigment Blue 15:4よりΔEはわずかに大きいが0.3%ではC.I.Pigment Blue 15:4より変化は小さくなる。このように高濃度側では、実は汎用染料であるC.I.Solvent Blue 104であっても、耐光性が良いといわれるC.I.Pigment Blue 15:4を凌駕する。一般に顔料の耐光性は濃度変化に緩慢であるが染料の耐光性は濃度変化に大きく依存する。低濃度の染料で着色した物と高濃度の顔料で着色したものを並べて比較するだけでは、各色材の特性を十分に把握しているとは言えない。

 

         図3 LIGHT FASTNESS TEST (ΔE after 400hr,Xenon fade meter,BST=83℃,)

            

 耐光性については、色材の構造や上述した濃度以外にもさまさまな要因に影響を受けるが、とりわけ樹脂との相溶性が重要な因子である。例えば無機顔料でさえ、染料・顔料に比べても耐光性が良いと言われているが、これも使用条件によって大きく左右する。代表的な黒色無機顔料であるカーボンブラックでさえ、十分に分散させた黒色の染料には耐光性で劣ることがある。NUBAIN® BLACK PC-5857(オリヱント化学工業株式会社製)はポリカーボネイト(PC)樹脂用の黒色の染料であるが、カーボンブラックとの耐光性試験の結果を図4にプロットして比較した。ともに樹脂への添加量は0.2%であるがカーボンブラックに比べてNUBAIN® BLACK PC-5857のほうが経時的に安定している。これは無機顔料の耐光性が優れるとする見識は必ずしも絶対的な根拠に基づいていないことを端的に表している。カーボンブラック自体が退色することはイメージしにくいが、樹脂製品そのものが多少なりとも照射表面より劣化して変色していくので、樹脂中に点として散在する顔料粒子では全体の変色を防ぎにくく、照射表面の全部を覆う染料のほうが有利であるためと思われる。樹脂着色材の耐光性を比較する場合には、実製品の樹脂組成との分散工程を踏まえた上での比較が必要である。

 

   図4 LIGHT FASTNESS TEST (PC Resin, dye content 0.2%, C-2, Xenon fade meter,BST=83℃)

          

 

 漆黒用途では着色材は黒色が濃いほどよい。灰色の比較と違って、黒色の比較についてはイメージしにくいかもしれないが、着色した成形品を並べてみると目視でよくわかる。逆に目視で違いが感じられなければ意味が無い。

 高濃度域では、一般に染料は顔料に比して高深色、高耐光性を示すので、漆黒用途の着色材には染料が供される。

図5にはカーボンブラックと漆黒性黒色染料について、濃度ごとのL*値の変化を比較したものをプロットした。

低濃度で使用する場合にはカーボンブラックのほうがL*値が低く、したがって深色となるが、0.1%を境にカーボンブラックは色が飽和し始めて、それ以上の濃度では染料のほうが深色となる。通常、飽和が始まると樹脂製品の表面の色材の本来の光沢を失い、さらに染料の場合ではブリード現象を引き起こしやすくなる。しかし染料であっても図5のように樹脂とよく相溶している場合にはブリード現象は見られない。図5で使用した各樹脂製品(ABS樹脂)のブリード性を調べてみたところ、染料濃度2%でもブリード性は全く見られなかった。(100℃*24hr、210kg/cm3 

カーボンブラックではL*値=9が限界であるが、各染料製品ではL*=5以下の領域も可能である。

 

             図5 漆黒黒色染料とカーボンブラックの発色の違い

    

着色材は色が安定していなければならいから、通常の染・顔料では成形後から色相が変化していくようなことはない。

しかし染料の中には既存の顔料には無い特徴を有するものがあり、特に漆黒性染料の中でも最も深色を示す染料がNUBIAN® BLACK PC-8550である。

図5ではNUBIAN® BLACK PC-8550は、初期段階において他の2つの染料にくらべて高濃度域でL*値が若干大きい、つまり劣っているように見えるが、実は、NUBIAN® BLACK PC-8550は、最も高濃度添加に向いている特性をもつ染料である。これは、図5の測定値はABS樹脂製品の成形直後の測定であって、NUBIAN® BLACK PC-8550は成形直後から色相の深色化が始まり、色相の変化が落ち着くまで一週間以上の時間を要することもある。色相のシフトはL*値が減少するだけでなく、-b*値が大きくなりより青味に移動する。この色相の変化は樹脂製品の再溶融で元の色相にリセットされることから、染料の分解による分子構造的な変化ではなく、樹脂の分子鎖との安定な位置関係に落ち着くのに時間がかかるものと考えられている。NUBIAN® BLACK PC-8550の変化は高濃度域では正確な計測が困難なので代わりに図6に0.01%での低濃度での変化を示した。

工業製品で量産する場合には色相が早期に安定することが望ましいが、より漆黒性を重視する場合、NUBIAN® BLACK PC-8550のように黒色度が増していく特長(機能)を活用することで従来では得られない高漆黒性の成形品を得ることができる。

 

               図6 NUBIAN BLACK PC-8550の色相の深色化

                 (ABS-660SF、dye content 0.01%)

    

 このように高漆黒性のプラスチック成形物を得るためには、従来の染料・顔料とは異なる添加濃度域で特性を評価しなければならない。また、染料を用いる場合、樹脂素材との相溶性が最も重要な因子の一つである。


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