ORIENT CHEMICAL INDUSTRIES CO.,LTD.
Nonクロムタイプの含金属黒色染料
・マーキング・コーディング用インクジェット
マーキング・コーディング用インクジェットプリンタは、食品包装やダンボールへの製造番号、賞味期限などのマーキング用途に利用されています。
例えば、食品(包装、飲料缶やPETボトル)、工業(電子基板やガラス、金属、木材など)、医薬品(錠剤)など様々な分野で使われています。
産業用インクジェットにおけるマーキング・コーディングは、そのシステムとしてCIJ方式(コンティニュアス式)とDOD方式(ドロップオンデマンド式)が実用化されています。
CIJは1本のノズルから連続的に吐出させたインク滴を電荷に応じ偏向させて印字する方式で、製造番号やロット番号といった主に小文字の印字に利用されています。
一方で、DODはその名の通り、必要なときに必要な分だけのインク滴を噴射して印字を行う方式であり、加熱によるインク滴の噴射を利用したサーマル方式、電圧を加えると変形する素子を利用したピエゾ方式、バルブの開閉によるバルブ方式の3つに分類されます。
DOD方式は、製造番号や各種コードのほか、マルチノズルのため商品名のような大文字の印字にも利用されています。
・マーキング用インクについて
ここではCIJ用ソルベント系インクについて述べます。CIJはインクに電荷に与え、その電荷量に応じて偏光板の電圧をコントロールして偏向させて印字を行うため、その機構上インク自体に導電性が必須となります。
導電性を付与させる導電剤としては、各種金属錯体、4級アンモニウム塩(ナフトールスルホン酸系、テトラフェニルホウ素系)、スルホニウム系、ヨードニウム系とアニオンとの塩が用いられています。
しかし、導電剤の添加はインクの安定性に悪影響を与えるため、染料自身に高い導電性が求められるケースが多くなります。
バインダーは、対象基材(プラスチック、段ボール、金属)への接着性、インクとの相溶性で使い分けられ、アクリル系、フェノール系、ブチラール、ポリエステル系といった様々な樹脂が使用されています。
溶媒としては、揮発性、樹脂や染料への溶解性の観点から従来はMEKやメタノールが用いられていました。
しかし、これらは日本ISHLにリストされていることに加えて、VOC、HAPによって規制されていることから、ケトン系やアルコール系でも規制を受けない溶媒へのシフトが活発化している。
一方、労働安全衛生法においては、自主管理を基軸にした新たな化学物質管理への移行が進む中でインク溶媒への影響も考えられます。
・マーキング用油溶性染料について
マーキング・コーディング用の色材を大別すると染料と顔料に分類されます。
染料は「染める」ためのイオン性基や極性基といった官能基を有するもので、多くの場合、溶媒に溶ける性質を持っています。
一方で、顔料はそのような官能基を有していないことから溶媒には溶けにくい性質を持ちます。
黒色に限定すると、マーキング用の顔料としては水性、油性共にカーボンブラックが多用されており、染料はアゾ系が圧倒的に多く、水溶性染料としてC.I. Direct Black19、C.I. Direct Black 168、C.I. Food Black 2といったところが多く、ソルベント系ではC.I. Solvent Black 27、C.I. Solvent Black 28、C.I. Solvent Black 29といった1:2型クロム(Ⅲ)錯体染料が中心に使用され、その他C.I. Solvent Black 3、C.I. Solvent Black 7が知られており、有機塩基との塩にはなるがC.I. Acid Black 52、C.I. Acid Black 175等も挙げられます。当社は、C.I. Solvent Black 27、C.I. Solvent Black 29としてVALIFASTBLACK 3810、3820、3830、3840、3878を上市しており、主力製品の一部となっております。
今回はマーキング用のソルベント系染料インクについて述べていきたいと思います。
インクに求められる要求仕様として、CIJ方式では黒色度、耐光性、電気特性や溶解性(安定性)が多く、DOD方式もCIJ同様でありますが、その他に樹脂への相溶性など求められるケースが多くなります。
C.I. Solvent Black 29をはじめとしたアゾクロム錯塩化合物は、黒色度、溶解性、耐光性および電気特性において優れた性能を有していることから、CIJ、DODの両方で使用されております。
何百、何千種類といったインクのラインナップがある中で、弊社VALIFAST BLACKシリーズは多岐にわたるインクに使用されております。
これは、VALIFAST BLACKシリーズの幅広い溶剤種への溶解性・安定性、各種樹脂・添加剤への相溶性といった特徴が安定したインク用染料として選ばれ、使い続けられる理由だと思います。
・CIJ用着色剤に求められる性能
黒色度
少量添加で「黒」と視認できる高い黒色度を持つ染料が望ましい
溶解性・安定性
CIJインクに用いられる溶媒はケトン系、アルコール系、エステル系、グリコールエーテル系など多岐にわたる。これらの溶媒に対する溶解性はもちろん、高い保存安定性が要求される。
また、溶媒への溶解性の他にインク成分となるバインダー・添加剤(導電剤、表面張力調整剤)との相溶性も重要なファクターとなる。
導電性
CIJはシステムの性質上、インクの導電性が必須となる。インクの導電性が不足する場合、無機塩、有機塩といった導電剤を処方するが、着色剤自身が高い導電性を有している場合は導電剤の添加は必要ない。導電剤の添加はインクの安定性、コストに大きく影響するため、これらの添加は極力避けるようにしている。
安全性
昨今の安全性に対する意識の高まりから重金属、環境排出に対する各国の規制もより一層厳しさを増している。CMRに分類されない、人体に影響与える重金属を含まない着色剤が望まれる。
・油性含金属染料について
当社ではIJ用の黒色染料としてクロム含金染料のVALIFAST BLACK 38XXシリーズ、ジスアゾ染料のOILBLACK 860を展開しています。
上で述べた通り、環境規制が厳しさを増す中で、6価クロム はもちろん、3価のクロムを含むクロムそのものが規制対象となるケースもあり[1]、国、業界によって扱い方が様々です。
また、RoHS指令 に基づく6価クロムの測定方法では、抽出操作時に酸化され、3価であっても6価として検出される事例も出てきています。
このことは、3価であってもクロム染料を扱うことによる潜在的なリスクが付きまとうことを意味しており、新たなインクへのクロム染料の使用に消極的なメーカーが増え、クロム染料代替の要望がより一層強くなってきています。これはCIJのみではなく、マーキングに用いられるソルベント系インク全体のニーズであり、「Non クロム」、「Non CMR」の黒色色材が求められています。
・Non クロム
3価は人体にとって必要な成分、6価は発がん性物質として知られている。規制によっては6価だけでなくクロムそのものを規制対象とするケースも見られること、3価のクロムでも測定時の特定条件下では3価から6価へ酸化が起こる可能性があること等、これらクロムの潜在的なリスクを回避するための措置としてNon クロムが求められている。
・Non CMR
クロム化合物≠CMR物質。人体に影響を与えない色材の開発が望まれている。
※注釈
[1]関係する規制によって、6価クロムとして、またはクロムそのものを規制対象とするなど、扱いが分かれるので関係法令に沿って対応する必要がある。
[1] 電気製品・電子部品に対して、廃棄やリサイクル時に、人や環境に対して影響を与える有害物質の含有量を制限する規制。(10物質)
・当社油溶性含金染料(開発品)
クロムをはじめとした油溶性含金染料は、インクジェット、筆記具、その他様々な分野で最も良く使われる黒色染料で、優れた発色、溶解性、耐光性が特徴になります。
弊社では、以前より規制対象となる重金属(クロム、コバルトetc)を含まない新たな油溶性黒色含金染料の開発を進めてまいりました。
当社開発品についてご紹介させて頂きます。
SVF-1-0399は、「規制対象となる重金属を含まない」「クロム染料に匹敵する黒色度・溶解性」が特徴になります。以下に基本的な物性を示します。
開発品(サンプル名):SVF-1-0399
化合物名:アゾ系鉄化合物
〇色相
測色結果より、VALIFAST BLACK 3810が青味の強い黒であるのに対し、SVF-1-0399は赤味が強い黒になります。
〇UV-Vis. 吸収スペクトル
〇溶解性
試験方法:50mlバイアル瓶に試料 2.0 g、溶媒 8.0 gを秤量し、スターラーで60分間撹拌する。瓶を倒立させ、瓶底や壁面に溶け残りがあれば、所定の濃度に相当する溶媒を加え30分間撹拌する。この操作を繰り返し、初期濃度は20%、次に15%、10%、5%の順で行い、溶け残りが無くなった時点の濃度を溶解度(w/w%)とした。
〇耐光性
試験方法:染料1%展色液をアートポスト紙に展色し、耐光性試験機で光照射を行い、OD値の減少率を測定した。
照射強度:36 W/m2 (300-400nm)全照射量6220kj/m2、チャンバー温度/湿度:設定なし、光源フィルター:窓ガラスフィルター
〇熱分析(TG/DTA)
〇登録状況
日本(化審法・安定法):少量新規登録 ※海外登録なし
〇Ames試験(2菌)
陽性
・今後の取り組み
冒頭で述べたように、より一層厳しさを増す環境規制、安全性に対する意識の高まりの中、マーキングを例にとると、クロム錯体染料の使用には消極的な姿勢ではあるが、その優れた性能ゆえに代替品への移行は今後の規制動向、インク開発動向に注視する必要があります。弊社として、世の中のニーズに合った材料開発を進め、その中で「安全性の高い色材」という優位性を活かして、インクジェットに留まらず、新たな用途展開を模索していきたいと考えています。
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