ORIENT CHEMICAL INDUSTRIES CO.,LTD.
結晶化遅延効果-2
ニグロシンを添加する6,6-ナイロンの結晶成長における速度論的解析
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等温DSC測定分析(図1)において、ニグロシンを添加した6,6-ナイロンの現象とニグロシンの効果について以下、①、②の事が分りました
① Nigrosine Base EXの添加濃度が増すにつれ結晶化速度が遅くなる。
② Nigrosine Base EXの添加濃度が増すにつれ、誘導期間(結晶核になるまでの時間;結晶が成長し始める大きさになるまでの時間) が長くなる。
また、下記表1から以下、③、④のことがわかりました。
③ Nigrosine Base EXの添加量が多くなるにつれ、結晶核の発生が抑えられ、球晶の数が少なくなる。
④ Nigrosine Base EXの添加量が多いと大きな球晶に成長する。
以上のことから⑤、⑥のことがわかりました。
⑤ 6,6-ナイロンの結晶領域にニグロシンは存在しない。
⑥ 非晶領域にニグロシンは存在し、ナイロン鎖の運動を抑制する。
「高分子は分子内で結晶化し、それが集まり放射状に成長する(球晶)。その結晶の隙間の非晶領域にニグロシンが存在する。」
以上にまとめる事が出来ます。
以上のことを踏まえて、次に、速度論的解析手法を用いて検証を行ってみました。
速度論的解析とは、
「結晶成長時の熱の放出は結晶量に比例する。」
このことから、その熱量データを結晶の幾何学的成長モデルの式に当てはめる事により結晶成長に関する情報を得ることです。幾何学的成長モデルが正しいかどうかは、結晶核から放射状に結晶成長することを確認することで、光学顕微鏡にて検証できます。
6,6-ナイロンの場合、図4の様な成長様式はAvrami型の成長様式であることが分かります。
このAvrami式に当てはめ、結晶成長速度、結晶化開始温度、Arrhenius プロットから、結晶化のし難さなどについての情報が得られました。これらの情報は、すべて結晶化を遅らせる現象と一致していました。
このAvrami型の成長様式は、成長時の重なりを加味したモデルで、以下のような結晶の成長をn(Avrami指数)で表すことができます。
定温測定のAvrami式の積分式は、 F(α)=n(-ln(1-α))1/n=ktであり直線式である。この式に任意のnを代入しプロットして最も直線性の良い傾き;k(結晶化速度定数)が得られます。
この様にして、Avrami型の拡散モデルのn;Avrami指数、とk;結晶化速度定数を決定しました。
最適なn値が約2.5であるという結果から Nigrosine Base EXを3部及び7.5部添加した6,6-ナイロンは均一に核が発生する2~3次元アブラミモデルであることが確認できました。(無添加及び1部を添加した6,6-ナイロンはアブラミモデルに一致しなかった。
(先に掲載した偏光顕微鏡写真により等方的に球晶成長していないことを確認)
また、下記式参照のJMA プロットにてnの確からしさを確認しました。
α=1-exp{-ktn} (Avrami式)
上式を変形し、(1-α)=exp{-ktn}
ln(1-α)=-ktn
ln{-ln(1-α)}=ln[k]+nln[t]
(JMA プロット;ln{-ln(1-α)}とln[t]でプロットすると傾きnの直線になる)
ニグロシンの添加量:3部及び7.5部のJMA プロットを行ったところ、結晶化率α=0.2~0.8において直線性が良く、n値が確からしいことを確認できました。
このときの結晶化速度定数は、図7のようになります。
Nigrosine Base EXにおいて、結晶化速度定数が、k≧0であることから、結晶化の開始温度が分かります(k=0の時)。3部添加の時に233℃、7.5部添加の時に299℃であったことから、明らかにニグロシンを多く入れた7.5部の方が3.0部より結晶化開始温度が低いことが確認できました。
Avrami式で導き出したk;結晶化速度定数から、結晶化するときの活性化エネルギーを比較しました。
まず、Arrheniusプロットを行い、ニグロシンの添加量により、活性化エネルギーがどの様に変化するかを調べました。
Arrhenius式は、k=A×exp(-Ea/RT)である。ここで、kは結晶化速度定数、Aは頻度因子、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度。
この式を変形し、
y=a×x+b(a,bは定数)
-lnk=(Ea/R)×(1/T) -lnA
-lnkと(1/T)に数値を代入してプロットし、傾きから活性化エネルギーを算出しました。
プロットから得られた活性化エネルギーは以下の通りです。
Arrheniusプロットの結果、傾きEa/R<0からEa<0であり結晶化に伴う障壁が無いことが分かります。
ニグロシンの濃度が高くなるとエネルギーの絶対値が小さくなります。従って、結晶化する勢いが弱くなります。
この様にニグロシン3.0部添加よりニグロシン7.5部添加のほうが結晶化し難い事を確認しました。
また、頻度因子はエントロピーを含む項であるため、
頻度因子A=b×T×exp(⊿S/R)
lnA=lnb+lnT+⊿S/R
ここでbは係数、Tは絶対温度、Rは気体定数、⊿Sは活性化エントロピーです。lnb、Rは定数で、lnTは427~487Kにおいて、6.06~6.19と変化量が小さいために定数と見なして無視すると、⊿SがlnAの変化量の殆どを占めることになります。
このエントロピーは、溶融中と固体状態での分子の拡散のし易さの差であるためこの差が大きいと凝集(結晶)し難くなるということになります。
ここで、実験から得られたlnA(切片)を見るとニグロシン添加量が(3部)(71.94)>7.5部(54.35)であり、ニグロシン添加3部のほうが⊿Sが大きくなります。言い換えると動的粘弾性の実験と同様に、ニグロシン濃度が高い方が拡散しにくく、6,6-ナイロンの分子を押さえ込んでいると推測されます。
以上のことから溶融状態でもアモルファス部分と同様の相互作用をしていることが確認できました。
これまでの実験と考察を纏めると
①Avrami式から得られた各温度における結晶化速度定数は、ニグロシン添加量が多いほど小さい値をとる。つまり、結晶成長速度が遅くなる。
②Avrami式から得られた、結晶化速度定数をプロットすることにより、ニグロシンを多く入れると結晶化開始温度が下がることが示され、結晶核の誘導期間が長くなる。このことから、結晶核が発生しにくい。
③Arrheniusプロットから得られる、活性化エネルギーより、ニグロシンが多いほど結晶化する勢いが小さくなる。
④Arrheniusの頻度因子の⊿Sの項から、Nigrosineを多く入れると拡散(分散)し難くなることが分かった。
以上の事は、先の章で述べてきた事象と今回のシミュレーションの結果が一致しており、ニグロシンが6,6-ナイロンの分子運動を抑制していることを示唆するものでした。
元文献
Influence of the Nigrosine Dye on the Thermal Behavior of Polyamide 66(Journal of Applied Polymer Science,Vol.101,3270-3274(2006))
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